医科疾患がある方へ(有病者歯科)

有病者歯科とは

「有病者歯科」という言葉を聞いたことがある人は少ないかもしれませんね。有病者歯科とは、持病や特定の疾患を持つ患者さんに対して、特別な配慮を行う歯科医療をまとめてそう呼んでいます。
具体的には、心臓病、糖尿病、高血圧、呼吸器疾患など、全身の健康状態に影響を及ぼす病気を持つ人たちのための歯科治療です。

特別な配慮が必要な理由

最近ようやく知られるようになりましたが、歯科はお口の中だけではなく、実は全身の健康に影響を及ぼします。前述のように、同じく全身の健康に影響がある疾患をお持ちの方の治療には十分な配慮が必要です。
例えば、心臓病の患者さんには、ストレスや痛みを最小限に抑えるような配慮をいたします。持病のある患者さんが、質の高い歯科治療を受けられるようにサポートいたします。

心臓疾患

高血圧

お薬を服薬していて血圧が安定している場合は治療は可能です。

狭心症

歯科医院受診時にニトログリセリン舌下錠とお薬手帳を持参し、治療を受ける前に狭心症のあることを必ず伝えてください。

心筋梗塞

心筋梗塞発症後1年経っていれば治療は可能です。心臓のお薬や血栓を防止する薬を飲まれていると思います。
お薬手帳をお持ちください。1年未満でも緊急時は治療いたします。

心臓弁膜症

口腔の菌が歯科治療などで血管内に入り、感染性心内膜炎になります。場合により抗生物質を内服後に治療し、その後も4、5日間抗生物質を服薬したりします。

心不全・不整脈

歯科治療を受ける前に、不整脈の薬を飲んでいることを伝えてください。お薬手帳を持参してください。

心臓ペースメーカー・植え込み型除細動器

ペースメーカー・植え込み型除細動器が体内に埋入されていることを伝えてください。電気メスは基本的には使用しません。

心臓ペースメーカーと
抜歯

心臓ペースメーカーと
歯科レントゲン

呼吸器疾患

気管支喘息

全身状態が落ちついているときに治療するようにしましょう。吸入薬を必ず持参して下さい。痛み止めの中には、発作を起こしやすくするものもあります。

慢性閉塞性肺疾患(COPD)

低酸素血症が起きていないか動脈血酸素飽和度(SpO2)をモニタリングしながら治療します。

腎疾患

人工透析

抜歯中や抜歯後に血が止まらなくなることがあります。透析翌日に抜歯を行います。術後は感染のリスクがあるので抗生物質投与します。

糖尿病

基本的に、HbA1cや空腹時血糖値等がコントロールされていれば抜歯は可能です。処置前と処置後には抗生物質の予防投与が必要です。血液検査値や他の合併症も併せて伝えて下さい。

内分泌疾患

甲状腺機能亢進症

甲状腺機能のコントロールが悪いと、抜歯時に過剰にホルモンが産生され、脈が速くなったり、血圧が高くなったりすることがあります。

甲状腺機能低下症

血液検査値で、トリヨードサイロニン(T3)、サイロキシン(T4)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)などの数値が十分にコントロールされていれば治療は問題ありません。

脳血管疾患

脳梗塞

病状、脳をサラサラにする薬のことをお伝えください。歯を削ったり、被せたりする歯科治療は問題ありませんが、抜歯や歯ぐきの切開治療を受ける時は勝手に薬を止めないで、相談して下さい。

脳出血

ある程度の治療は問題ありませんが、麻酔注射をする処置が必要な時は、注意が必要です。

くも膜下出血

どのような歯科治療を受けるかによって、患者さんへの対応も異なりますので相談して下さい。必要に応じて近隣の総合病院歯科口腔外科の受診をお薦めする場合もあります。

肝疾患

肝炎

抜歯を行う時は、相談して下さい。治療を受ける際は、ご自身が肝炎であることを必ずお伝えて下さい。

肝硬変

抜歯後に血が止まりにくいことが予想されますので、血液検査値をお持ちください。場合によっては輸血が必要なこともあり近隣の総合病院歯科口腔外科をご紹介します。

産婦人科系疾患

妊娠

虫歯の治療や歯石除去など通常の歯科治療を行うことはできますが、妊娠の初期や後期は応急的処置にとどめ、安定期(5~7か月頃)に歯科治療をすることをお勧めします。妊娠後期はお腹が大きくなり歯科治療時、長時間の仰向け体位で気分が悪くなったりします。抜歯はストレスが大きいので、できたら妊娠中は避けましょう。しかし、どうしても抜歯をしなければならない場合もあります。当院でも抜歯は可能です。歯科のレントゲンや局所麻酔薬は、通常は母子ともにほとんど影響ありません。痛み止めはアセトアミノフェン(カロナール®など)、抗生物質はペニシリン系やセフェム系が良いでしょう。

授乳中

授乳中でどうしても痛みがひどく薬が必要な場合には、比較的安全に使用できるアセトアミノフェン(カロナール®など)を使用します。母乳への移行は、内服1~2時間後にピークに達するので、服用する直前か直後に授乳するのが良いでしょう。抗生物質は、胎児や乳児への影響が少ないペニシリン系やセフェム系を投与します。

自己免疫疾患

ステロイド薬で骨粗しょう症をおこす場合があります。ある種の骨粗しょう症治療薬を継続して使用している方は、あごの骨の壊死が起こることがあります。

リウマチ

抗リウマチ薬は炎症を鎮める薬です。多いのは葉酸代謝拮抗薬といわれるMTX(リューマトレックス®)です。この薬の副作用に口腔粘膜炎があります。ステロイド薬もリウマチの薬です。分子標的薬(ヒュミラー®)などで治療を受けられている方は、歯ぐきの炎症がひどくなることがあります。

その他

抗血栓療法中

血液サラサラの薬を飲んでいる場合でも、ほとんどの場合、抜歯に際して薬をやめることはありません。抜歯は適切な止血処置で、ほとんどの場合は可能です。

認知症

しっかり噛める歯(入れ歯でも良い)があって、良く噛むことが認知症予防になるようです。認知症患者は体を触られるケア、特に口腔ケアに対して抵抗性を示します。口腔内に入ってきたものを反射的に噛んでしまいます。この点に配慮しながら口腔清掃を行います。また、嚥下機能が低下していることが多く、誤嚥に注意が必要です。

薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)

BP薬を服用、もしくは注射薬を投与されている患者さんが抜歯を受けると治りが悪く、まれに骨が腐ってしまう場合があります。その発生率はとても低いです。しかし、一度発症すると治りにくい場合もあります。お口をきれいにしてもらった後に抜歯を受けられることをお勧めします。